甘味屋に男性が一人で入るというこついて

甘いものが好きである。だから、デブなんだ。

おおきなお世話だ!

ケーキも好きだが、餡子系のもの、和菓子が好きだ。

暑い毎日が続く今日この頃、街を歩いていると、ついついコーヒーショップに寄りたくなるが、コーヒーショップに寄るなら、甘味屋に寄る。寒天系のもの、あんみつ、くずきり、なんかが美味しい。甘いものが食べたくない時は、トコロ天でもいい。いまの季節だと、かぎ氷っていう手もある。

そう言えば、ここ何年か、かき氷ブームで、雑誌などに紹介される有名店には長蛇の列ができている。かき氷なんか並んでまで食うものかと思ったが、実際に食べてみたら(並ぶのが嫌だから、夏になりかけの午前中とかに行ったんだが)、氷が違う、シロップが違う、トッピングが違う、いまどきのかき氷は、なかなかあなどれないものがあるのだ。

 

好きな甘味屋

 

かき氷の話ではない。甘味屋だ。だいたい出掛ける場所には、よく行く甘味屋がある。

上野は、やはり「みはし」だね。昔の地名、三橋にある。橋があったんだ、昔は。不忍池の向かい側。あんみつはだいたい粒餡が好きだが、「みはし」はこし餡でもうまい。甘くなく、さらさらとした食感にホッとする。いつも混んでいるから、上野駅のアトレ店もおすすめである。

新宿は「追分団子」。店に入って、あんみつもいいが、団子を買って、外のベンチで新宿通りを行く車を眺めながらの一服も捨て難い。ここはかつて、甲州街道の一番目の宿場町、内藤新宿だった。本来は高井戸が一番目の宿場のはずだったが、元禄の頃に、ここに繁華街を作れば儲かると思った連中が幕府に願い出て宿場町という名の歓楽街を作った。徳川吉宗享保の改革で廃止されたが、田沼意次の時代に復活、昭和の時代まで、赤線青線で賑わい、現在も新宿二丁目がすぐ傍だ。そんな昔の面影を偲びつつ、団子を食べるのもいい。そう、江戸時代は今の新宿二丁目あたりは唐辛子の畑だったらしい。唐辛子は新宿の名物だった。

飯田橋の「紀之善」も好きな店で、ここは、まめかんがおすすめ。寒天と豆だけのシンプルな奴。黒蜜に、塩辛い豆がいっぱい入っていて、味のコントラストがいい。

渋谷は、あんまりないね。チェーン店だけど、西武デパート地下の「麻布茶房」。すいていていいし、場所がわかりやすいから、待ち合わせによく使う。

浅草は観光地だから、滅多に甘味屋には入らない。どこも混んでいるが、すいているのビューホテルの一階の甘味屋。ここも待ち合わせにはいい。

 

甘味屋に男は入り難い

 

ただし、男一人で入り難いのも甘味屋だ。

なんでだろう。立ち飲み屋に女性は平気で入れるのに。いやいや、それも勇気がいる。たいていはカップルか、ツワモノ印の女性軍団でないと厳しい。一人で仁王立ちになって、立ち飲み屋でビールあおっている女性もいなくはないけれどね。

甘味屋もカップルはOKなんだ。だが、男一人はやはり浮いた存在だ。

甘味屋はある意味、女性の聖域でもあるのか。聖域はオーバーだが、おばさまたちがペチャクチャやる場所で、基本は男子禁制でいいんじゃないか、という意見が大半だ。

積極的に甘味屋に入りたい男なんていないんだよ、という考え方もある。甘味屋に入る男は、パートナーに無理矢理に連れて来られる男性に違いない。そろそろ会社も定年近くて、そんなに忙しくもないから奥様のお供で買い物に来て、ちょっと疲れたからと甘味屋に入ってきて、さて座ったものの何を食べていいかもわからず、抹茶(お菓子付)かなんかを頼む、そんな初老のおじ様。甘味屋にいる男性はだいたいそんなもんだ。

でもね、男だって、あんみつは食べたい。

あんみつを食べるのに、男だ女だと性差別をしていいのか!

いやいや、世の中はね、まだまだいろんなところで性差別はあるんだ。たいていは女性や、あるいはLGBTの人なんかが差別され、不利益を被っている。だから逆に、女性がホッとできるわずかな空間、甘味屋にまで男は進出してはいけないんだ。少しは遠慮しろよ。という意見が実は案外多かったりする。

そこはあくまで、甘味屋で、だから「男子禁制」とは声高には言わない。なるべく男性だけのご入店は「ご遠慮ください」という低姿勢な態度だ。そこを入っていく男のお前はなんなんだ。

かつてただ、ここがうまい、あそこがうまいという感じで甘味屋探訪記をネットに書いた時に、そんな批判を書かれたこともあったっけ。

スウィーツ男子なんていうのもモテ囃されているが、それはイケメンのタレントとかの話で、やはり、おじさんが甘味屋に入って来るのに抵抗を感じる女性はいるのだ。

 

それでも私は甘味屋に行く

 

それでも平気で甘味屋に行く私は、どれだけ無神経な奴なんだ。

昔はなるべくカップルで行ったよ。いまや、爺だから、一緒に行ってくれる女性もいなくなった。仕方がないから一人で行くんだ。

だから、混んでいる店はなるべく避ける。「みはし」や「紀之膳」は混んでいるから、なるべく目立たないように、そっと食べて、早々に退店する。

そうまでして食べたいのか。食べたいよ。ケーキには替え難い、買って帰る団子では味わえない、いや、買って帰る団子には団子のよさがあるが、それはいずれ語ろう。ケーキや団子とは違うんだ。あんみつの魅力は。

ツルんとした寒天の食感、なるべく黒蜜がいいね。黒蜜の濃厚な甘さ、それをさらに餡子の甘さで増殖させるうまさ。みかんの缶詰や、あんずや、時にバナナやメロンが入っているのも、フルーツの甘味、酸味とのコントラストに心やすまる。

これはね、女性だけの楽しみではない。甘味屋の場所は女性の物かもしれないが、あんみつを食べる権利は誰にでもあるんだ。

もしも甘味屋が高圧的に「男子禁制」を唄うなら戦う。低姿勢に「ご遠慮願いたい」と言うなら、遠慮しつつ時々静かに行く。戦っても、それは店の方針だから負けるんだろうけれど。いまは、そういう店も少なくなったのかもしれないが、それでも男性一人の客は甘味屋には少ない。それはまだ、男たちがあんみつの旨さに気づいていないだけなのかもしれない。